持ち味採用のリアル

2014年7月2日

年間500社の人事と議論する識者が解説。
いま、企業が個人の"持ち味"に注目する理由

新卒採用の現場では昨今、個人のスキル・資格、過去の経験などから見える"持ち味"を重視して採用を行う動きが高まりつつあります。企業はどんな理由で持ち味に注目し、どのように評価しているのでしょうか?年間500社以上の企業人事を訪問し、新卒採用の現状に詳しい、中央大学大学院客員教授の楠田氏に聞きました。

プロフィール

中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授
(戦略的人材マネジメント研究所 代表)
東証一部エレクトロニクス関連企業3社の社員を経験した後にベンチャー企業社長を10年経験。2009年より年間500社の人事部門を5年連続訪問。人事部門の役割と人事の人たちのキャリアについて研究。多数の企業で顧問も担う。主な著書「破壊と創造の人事」(出版:ディスカヴァー・トゥエンティワン)2011年は、Amazonのランキング会社経営部門4位(2011年6月21日)を獲得した。

企業が個人の持ち味に注目する最大の理由は、
「多様性を取り入れることで、イノベーションを
起こしたい」から

ビジネスサイクルの加速で、事業を動かすあらゆる役割の人材を抜け漏れなく採用する必要が

企業が一つのビジネスを立ち上げ、大きく成長させるためには、さまざまな役割を担う多種多様な人材が必要になります。
例えば、モノづくりやサービスづくりを行う人、そのモノやサービスを運用し、ビジネスを回していく人、立ちあがったビジネスを大きく成長させる人、そして、そのビジネスが時代に合わなくなったときに畳む人…などが挙げられます。

現在はあらゆる産業で、ビジネスのサイクルが非常に速まっています。以前であれば、いったん市場に出したら数十年は売れ続けていたような商品が、今では数年で売れなくなることも。スマートフォンやPCの機種サイクルを見れば、その速さが実感できると思います。新しいモノやサービスがどんどん市場に投入され、ついこの間まで最先端だったものが廃れていく…こんな傾向が強まっています。

この流れを受けて、「一つのビジネスを動かす上で、それぞれの役割にぴったり合い、力を発揮してくれる人を採用したい」と考える企業が増えていますが、それぞれの役割に合うか・合わないかを判断するときに有効なポイントが、個人の"持ち味"です。
スピード感を持って新しいものをどんどん生み出すのが好きな人、一つの物事にじっくり取り組み慎重に物事を進めたい人、対極なタイプですが、どちらがいい、悪いではなく、それがその人の持ち味。持ち味を活かせるポジションについてもらうことで力を発揮してもらい、それぞれの立ち位置でビジネスを推進してほしいと、企業は考えているのです。

今までは、採用の際には「自社の社風に向いているかどうか」を重視する人事が多かったのですが、結果、人材の同質的化が起こり、今までにない斬新な意見・アイディアが生まれにくいという難点がありました。
そんな状況を経て現在は、いろいろな持ち味を持つ人を採用し、多角的な視点で物事を見極め、議論し、互いが刺激し合うことで、イノベーションを起こしたいと考える企業が増えています。企業は次のビジネスを生み出せる原動力が欲しいと考えているのです。

新卒採用でも“持ち味”が重視される理由は、適材適所の配属ができ、新人の「早期戦力化」も可能になるため

“持ち味”が重視されるのは中途採用で、新卒採用ではあまり重視されないのではとお考えの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

確かに昔は新卒採用では長期雇用を前提としてじっくり何十年もかけて新卒学生を育成するという流れが主流でした。
その際に重視されていたのは素直さや、愚直さなど、性格特性。

しかし、ビジネスの展開が速くなっている昨今では、企業もできるだけ早く新人を育成し、1日も早く戦力になってもらいたいと考えているため、学生時代に培ったスキル・資格、過去の経験なども性格特性に加えて重視するようになってきているのです。
採用時にその人の持ち味がわかっていれば、「適材適所の配置」が可能になり、より早く力が発揮できるようになるでしょう。また、配属後のミスマッチの可能性が低下することで、社会問題にもなっている「若者の早期離職」にも歯止めをかけられるはずです。

これから社会に出ていく学生の皆さんにアドバイスをするとしたら、自分の”持ち味”を理解するために、インターンシップなどに参加して自分を理解すること。政府の方針もあり、最近はどの企業もインターンシップの提供機会を増やしています。ビジネスの現場で職業体験をすることで、自分の過去の経験で培ってきた力がビジネス上でどのように活かせるのか、実体験をすることもできます。“持ち味”は特別なものではなく誰にでもあるもの。そんな風に考えて、自分の可能性をどんどん広げて欲しいと思っています。

[EDIT/WRITING] 伊藤理子 [PHOTO] 平山諭