Careeful Life ―持ち味を活かして働こう!―

2014年6月16日

素晴らしい実績を持ち、各界の第一線で輝くその道の「プロ」は、自分の“持ち味”にいつ、どのようなきっかけで気づいたのでしょう?著名人にエピソードを伺うこの連載、第1回は58万部突破のベストセラー『伝え方が9割』の著者で、コピーライターの佐々木圭一さんに話を伺いました。

大学・大学院とロボットの勉強をしていた自分が、全く畑違いのコピーライターに。
挫折の末、理系脳だからこそ、コピーライティングの「言葉の法則」に気づくことができた

就活時に学んだ「やらない理由を探して挑戦を止めるな。やれば、できる」が心の支えに

2013年末退職した博報堂には、新卒入社以来丸17年勤務し、コピーライターとして数々の賞を受賞しました。しかし、もともとは理系出身で、大学、大学院とロボットの勉強をしていたんです。

私の同級生は、修了後はそのままメーカーの研究所に進む人が大半でした。しかし、私は人とのコミュニケーションが苦手。このまま研究の道に進んだら、一生苦手を克服できないのではないか…という危機感を覚えたんです。

そのときに出会った、就職塾「我究館」代表だった杉村太郎さんとの出会いが、一つのターニングポイントになりました。当時、就活の世界ではカリスマと言われていた人物。そのオーラと信念を持った発言にたちまち惹かれ、心の中で「師匠」と仰ぐようになりました。
そんなとき、杉村さんが「君は登山が趣味らしいけれど、今一番登ってみたい山は何?」と聞かれ、安易に「ヒマラヤです」と答えたんです。すると、「就活をいったん止めてでも、今から登りに行くといい」と言うんです。

やらない理由は、すぐに山ほど浮かびました。オカネがない、授業やバイトがあるから時間がない、危険だから親が心配する、そもそも国内の低い山にしか登ったことがない――。でも、やらないもっともな理由はおいておいて、そのとき、師匠の言っていることを信じてみようと思ったんです。
そこから、オカネを集め、親を説得し、ルートを調べ、日程を調整し…と、全て自分一人で準備を行い、ヒマラヤ登山を実現したんです。
帰って来て思いました。「私に足りないのは、環境とか能力ではなく、チャレンジすることだったんだ」「何事もできないと決めつけ、やってこなかっただけではないか」
自分の持ち味に気づくのは、もう少し後になりますが、この「自分の快適ゾーンから踏み出した」経験がベースになっています。

芽が出なくても諦めずにコピーに臨み続けたことで、言葉の法則性を見つけ出す

博報堂を就職先に選んだのは、先の経験で、「苦手だったコミュニケーション力を伸ばすことに挑戦してみよう」と思ったから。「コミュニケーション力をつけるなら、広告代理店だ!」という勝手な思い込みで選びました(笑)。
ただ、ガチガチの理系出身の私が、よもやコピーライター配属になるとは思ってもみませんでした。
初めは、「コピーライターみたいな、いわゆる横文字の職業に就けるなんて、ちょっとカッコイイ」なんて思っていましたが、すぐに壁にぶつかりました。コピーを書いても、書いても、全く評価されなかったのです。
1日に300本、400本書いても、採用されない。「考えが浅い」と言われても、「浅いって、ナニ?こんなに一生懸命頑張っているのに」と思っていました。一方で、同期入社の仲間のコピーはどんどん世に出て行きました。出口が全く見えず、思い悩む日々が数年間続きました。

それでも諦めなかったのは、学生時代に「できないと決めつけていたことに挑戦して、乗り越えた」経験があったから。目の前の仕事に、とにかくまっすぐ、愚直なまでに取り組み続けました。

そんなある日、ふと気付いたことがありました。入社以来、CMや映画、ドラマのキャッチコピーや、セリフなど、「心に留まった世の中のいい言葉」をノートに書き留めることを習慣化していたのですが、それを読み返していたとき、「この言葉とこの言葉、似ているな」と気づいたんです。 『踊る大捜査線』の「事件は会議室で起きてるんじゃない!現場で起きてるんだ!」と、ブルース・リー主演の『燃えよドラゴン』の「考えるな、感じろ」。いずれも映画の名台詞です。この2つの台詞はいずれも、「会議室・現場」「考えるな・感じろ」という正反対の言葉が使われています。正反対の言葉を並べると、より強く心に残るのではないか?そう考えました。

この「法則」に気づいた後に書いたコピーが、「言えないから、歌が生まれた」。Mr.Children『君が好き』のキャッチコピーです。一見、詩のようですが、先の法則性に則ったもの。「言えない」というネガティブな言葉に、「生まれた」という正反対のポジティブな言葉をつけることで、印象を強めることを狙ったんです。これが、TCC(東京コピーライターズクラブ)の新人賞に選ばれました。

これを機に、さまざまな言葉の法則に気づくようになりました。おそらく「理系脳」だからこそ、言葉を分解して法則を見つけ出すことができたのだと思います。それをコピーで実践するようになってから、霧が晴れたようにスムーズにコピーが生まれるようになりました。
それまでは、名コピーはひらめきや才能で生まれるものだと思っていました。しかし、法則に気づいた後は、「技術」で作られる部分も大きいのではないかと感じたんです。これが私の持ち味なんだ!と気づくことができました。

その「法則の集大成」が、著書『伝え方が9割』。伝え方ひとつで、相手の受け取り方がガラリと変わり、コミュニケーションが円滑になると示した本で、現在58万部のベストセラーになりました。研究室にこもりきりで、コミュニケーションに苦手意識を持っていた私が、でもその大学時代の考え方を武器に、コミュニケーションについて語れるようになった。不思議なものです。

今の世の中には、情報があふれています。私は大学で講義をする機会が多くありますが、学生は皆さん非常に優秀だなと思う反面、情報を見るだけで「これをやったら、失敗する」と失敗シミュレーションを描いてしまい、チャレンジを止めてしまう人が非常に多いと感じています。
想像の範囲内で、これなら大丈夫だと思ったものだけにチャレンジしていては、みんな横並び。没個性に陥ってしまいます。自分の「持ち味」を知るためにも、やりたいと思ったことがあればぜひ失敗を恐れずにチャレンジしてほしい。たとえ失敗しても、その中から見えてくるものは必ずありますよ。

“持ち味を見つけるためのヒント”

① 尊敬できる師匠を見つけ、アドバイスを
疑うことなく素直にやり切ってみる

② 自分の「快適ゾーン」から一歩踏み出してみる

[EDIT/WRITING] 伊藤理子 [PHOTO] 平山諭

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